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開会式




 一人の女が、そっと息をひそめて身を隠していた。
 今夜は鍋にでもするつもりなのだろうか。手にした買い物袋からは、大根が頭をのぞかせている。

「いよいよだね……」

 ごくりと唾を飲み込む。
 いざ逝かん、戦いの地へ……
 女がごそりと動いた、まさにその瞬間。

「誰だ!そこにいるのは!」

 野太い声とともに、たくさんの靴音が聞こえてきた。

「ちぃ!見つかったかっ」

 女は歯ぎしりをかみながら、その場を飛び出した。
 目的地はもうすぐだ。
 後少しなのだ。
 ここさえ……ここさえしのぎきることが出来れば……

「いたぞ!」
「捕まえろ!」
「逃がすな!」


 ライトが照らされ、その女、片理増枝(かたり・ますえ)の姿が映し出された。

「私はこんな場所で捕まるわけにはいかないんだよっ!四年に一度のmaidfight!これは旦那を質に入れてでも、特等席で見なけりゃね!」
「待て!」
「女!」
「チケットは持っているのか!」


 増枝は笑いながらいった。

「あたしが持っているのは、好奇心だけだよっ」
「うるさい!好奇心でチケットが買えるか!」
「捕まえろ捕まえろ」
「あっ、このおばさん、抵抗するぞ!」
「ロープだ!ロープ持って来い!」


 警備員に羽交い絞めにされ、ロープでぐるぐる巻きにされる増枝。
 あと少しで会場までいけたのに・・・目の前の通路の先から、観客たちの歓声が聞こえてくる。

「きー!悔しい!」

 増枝の叫び声が、通路にこだましていった。

……

……






「みなさん!こんにちは!」

 雲一つ無い晴天の下、広島市民球場にアナウンスが響き渡った。

「先ほど、三塁側入り口でなにやら騒ぎがあったみたいですけど、大事には至らなかったみたいですね~よかったよかった」

 よく透き通る声だ。
 市民球場は超満員であった。観客の熱気が充満し、空気が歪んで見える。

「さぁ!いよいよ!第13回maidfightが始まります!もう、ワクワクが止まりませんね!実況はこの私、名前の由来は聞かないで、マイクが恋人、現役女子高生アナウンサー実況子(みのり・きょうこ)がおおくりいたします!」

 
おぉぇぉぉぉぉぉ!

 会場のボルテージがMAXにまで盛り上がる。
 球場のあちこちから、

「L・O・V・E、ラブリ~キョーコ~♪」

 という黄色い声援が飛んできた。
 どうやら固定ファンがかなりいるようだ。

 
パンパンパン!

 突然、花火が打ち上がり、会場にドライアイスの白いスモークが湧き上がった。
 空を飛んでいた数台のヘリコプターから様々な色のライトが球場を照らし出した。
 ヘリコプターの轟音ですら、湧き上がる観客たちの歓声の前にはあってなきがごとしであった。広島が、日本が、いや、全世界が、この時を待ち望んでいたのだ。

 第13回、maid fightが始まる。

「では!いよいよ!」

 青天井に盛り上がる球場内に、アナウンスが響き渡った。
 実況子が、手にしたマイクを力いっぱい握り締めながら、言葉を放った。

「参加選手の、入場ですっ」




     

「虫も殺せないような純真な目をしながら、にこっと笑って銃を撃つ!」
「イギリス代表、アリス!!」
「ご主人様、キャロル!!」




     

「サブミッションは王者の技よ!全ての関節は私に折られるために存在する!」
「総合格闘技スウォン流、韓国代表、リ・ヨンエ!!」
「ご主人様、サイ・スウォン!!」




     

「この御主人様に出逢うため生きてきた!主のためなら痛くない!鉄の翼『Flügel Eisen(フリューゲル・アイゼン)』の名にかけて……」
「鉄槌のメイド、ドイツ代表、ウィータ!!」
「ご主人様、ソフィー!!」




     

「見た目で判断すると怪我をする!じっちゃんの名にかけて負けられない!」
「ロリコン死すべし!日本代表、木ノ内美佳!!」
「ご主人様、板倉陽一!!」




     

「働きたくない!この思いは誰にも負けない!楽するためならどんな事にも耐えてみせる!」
「豪運ニート、ナウル共和国代表、ロサミスティック!!」
「ご主人様、J.J!!」




     

「Zyakokufight優勝者の称号は伊達じゃない!今宵も魔剣が優雅に舞う!」
「不敗の魔女こと、セーシェル共和国代表、伏魔殿邪美!!」
「ご主人様、鬼流院蛇姫!!」




     

「炊事洗濯料理も完璧。おしとやかな大和撫子とハイパーモードのギャップに人気沸騰!」
「戦うメイドさん、日本代表、葉山くみ子!!」
「ご主人様、細海健志!!」




     

「中国で一番ということは、世界で一番ということだ!中華の科学は世界一いぃぃぃ!」
「全自動機械娘、中国代表、桂花!!」
「ご主人様、金遼斧!!」




     

「ツンデレツインテールこそが地上最強萌えの代名詞だ!涙目だって気にしない!」
「萌えるガンマスター、スイス代表、レニー!!」
「ご主人様、アミエル!!」




     

「獲物を追ってここまできたッ キャリア一切不明!」
「自称22歳!インド代表、カーミラ!!」
「ご主人様、チャンドラー・シン!!」




     

「中途半端な悪ならいらぬ!『ぶっ殺す!』と思った時にはすでにその行動は完了している!」
「史上最悪の犯罪者にて、史上最高の悪のカリスマ!アメリカ代表、キャサリン!!」
「ご主人様、マイケル!!」




     

「男の道をそれるとも、女の道をそれるとも、踏み外せぬは人の道!咲かせてみせようオカマ道(オカマウェイ)!」
「心は永遠の17歳、台湾代表、鄭慶花!!」
「ご主人様、趙文!!」




     

「特に理由はないッ 貴族が強いのは当たりまえ!この背中にはフランスと愛を背負っている! 」
「正真正銘、本物のプリンセス!フランス代表、シャルロット・フィリス!!」
「ご主人様、ミシェル・ネイ!!」




     

「かつて「鋼のエカテリーナと弾丸伍長」と呼ばれた戦場の悪魔が帰ってきた!」
「デンジャラスビューティ!ロシア代表、オクサーナ・プガチョワ!!」
「ご主人様、矢島洋平!!」




     

「愛がある・・・哀しみもある・・・しかし・・・・・・萌えがないでしょ!さぁ、我輩に萌えてみたまえ!」
「ドジっこアイドル、イタリア代表、ルーシア!!」
「ご主人様、モナムールスキー!!」




     

「哺乳類?鳥類?違う!私は全生物の中で最強なのだ!」
「踊るキグナスペンギン!南極代表、ナターシャ!!」
「ご主人様、アテナ!!」



「以上、16国、32名により、第13回maid fightが開催されます!」




「アリガトォォォォォ!」
「アリガトォォォォォ!」


 歓喜の涙と共に、観客からの声援が響き渡った。
 目の前にいる32名は、それぞれ国の代表なのだ。
 その背に、夢と、未来と、希望を背負い、今この場に立っている。

「それでは!前大会覇者、西園寺お梅様から、開会の言葉をいただきます!」

 況子のアナウンスに、会場がどよめいた。

・・・あの、西園寺お梅が・・・

 今から4年前、行われた第12回大会。
 そこで圧倒的な強さを持って優勝したその実力は、すでに伝説として語られている。

「いったい・・・どこに・・・」

 ざわ・・・ざわ・・・

 観客たちが目を凝らしてお梅の姿を探す。
 だが、どこにも見当たらない。

「お梅は、いったいどこに・・・」

「ここだよ」

 その声は、なんと、参加選手たちのど真ん中から聞こえてきた。




 いつからそこにいたのか?
 誰も気づかなかった。
 32名の選手たちが、それぞれ別々の表情でお梅を見つめている。

「ふふん。なかなかいい顔してるじゃないか」

 お梅は、いつの間にか用意していた座布団の上に座っていた。
 年の頃は80を過ぎているだろうか?
 ピンク色の着物がけばけばしい。

「ようこそ、maid fightへ」

 お茶を一杯すする。
 いったい、どこから用意してきたのだろうか?

「いい表情をした男女が16組。やることは決まっているね」

 ずずず・・・とお茶を飲む音がする。
 超満員の観客の視線が、このたった一人のばあ様の一挙手一同に注がれていた。

「戦いだ」

 それだけ言うと、お茶を地面に置いた。

「実況のお前」
「は、はい!」

 突然名前を呼ばれて、況子は思わず声をうわずらせて応えた。アナウンサーとしてあるまじき失敗だが、お梅のかもし出す形容しがたいプレッシャーの前には仕方のないことだったのかもしれない。

「あたしは、綺麗かい?」
「そ、それは・・・」

 意外な質問だった。言葉に困る。まさか、「皺皺の梅干みたいですよ」と正直に言うわけにはいかない。なんといっても、このお梅は日本を代表する英雄なのだ。
 脂汗を流して止まっている況子を見て、お梅は突然笑い始めた。

「カッカッカッカ。悪かったねぇ。答えに困る質問だったね・・・こんなおばあちゃんが、綺麗なわけないだろう」
「は、はぁ・・・」

 完全にお梅のペースだ。況子はもはや力なくそううなずくことしか出来なかった。

「だが、こんなおばあちゃんが大手を振って生きていけるのも、勝ったからだ。前回の大会で、アタシが優勝したからこそ、誰もアタシに向かって何もいえなくなる・・・もしも負けていたら、アタシなんて誰も見向きもしないよ」

 そうでしょうね、ともいえない。
 困っている況子を見て、またお梅が笑った。

「マイク貸しな」
「は、はい!」

 逆らうことも出来ず、況子はアナウンサーの命とも言うべきマイクを差し出した。
 ポンポンと叩き、スイッチがちゃんと入っていることを確かめると、お梅はいった。

「メイド諸君」

 渋い声だった。

「開会の言葉として、アタシが言えることは一つだけだ・・・勝ちなさい」

 あまりにも、単刀直入な言葉だった。

「勝たなければ、意味はない。今までの練習も、努力も、人生も、勝たなければ意味はないんだ。アタシは勝った。だから言う資格がある」

 そういうと、懐から一枚の紙切れを取り出した。
 それを見た況子が、あっと驚いて自らのポケットをまさぐる・・・そこには、何もなかった。

(あのばばぁ・・・)

 悔しさに歯軋りをする。
 お梅はニヤリと笑うと、言葉を続けた。

「組み合わせを発表する」

 お梅が手にしていた紙、それは今から況子が発表する予定だった、トーナメントの組み合わせ表であったのだ。

「Aブロック第1試合・・・セーシャル共和国代表『伏魔殿邪美』VSイギリス代表『アリス』!」

 VS 




「Aブロック第2試合・・・ドイツ代表『ウィータ』VS日本代表『木ノ内美佳』!」

 VS 




「Aブロック第3試合・・・イタリア代表『ルーシア』VSアメリカ代表『キャサリン』!」

 VS 




「Aブロック第4試合・・・台湾代表『鄭慶花』VS南極代表『ナターシャ』!」

 VS 




「Bブロック第1試合・・・中国代表『桂花』VSロシア代表『オクサーナ』!」

 VS 




「Bブロック第2試合・・・インド代表カーミラ』VS日本代表『葉山くみ子』!」

 VS 




「Bブロック第3試合・・・スイス代表『レニー』VSナウル共和国代表『ロサミスティック』!」

 VS 




「Bブロック第4試合・・・韓国代表『リ・ヨンエ』VSフランス代表『シャルロット』!」

 VS 




 ひととおりの組み合わせを全て言い終わると、お梅はゆっくりと紙を戻した。
 居並ぶ32名のメイドとご主人様たちを見ると、お梅はいった。

「16国の中で、優勝できるのはたった1国だけだ。優勝はいいよ。別格だ。この気持ちを味わいたいなら・・・」

 そして、手にしたセンスで自らを指ししめす。

「ここまで登ってきな!・・・以上!」


 こうして、第13回、maid fightは始まったのである。






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